
「先生のところでは、流行りのエクソソームはやらないの?」
経営者の方々や健康リテラシーの高い方々から、最近よくこの質問をいただきます。 結論から申し上げます。当院では、現時点では行いません。
私は北海道大学脳神経外科の研究室で、来る日も来る日もエクソソームと向き合っていた時期があります。
今日は、論文上の知識だけでなく、実際に実験室でピペットを握り、自らの手でエクソソームの抽出・測定・動物への投与と評価までを行ってきた「元・研究者」としての実感をお話しします。
1. 研究室で見た「本物の可能性」と「抽出の壁」
当時、私は「超遠心法(ちょうえんしんほう)」という、非常に手間と時間のかかる方法でエクソソームの抽出を行っていました。 何万回転という猛烈なGをかけ、不純物を極限まで取り除き、やっとの思いで取り出した微量のエクソソーム。それを投与した時の反応を見たとき、「これは医療を変える本物の可能性がある」と肌で感じたことを覚えています。
この時の研究成果は論文として結実し、国際的な学術誌に掲載されました。 手前味噌ではありますが、この論文は発表から短期間で世界中の研究者によって引用されており、この領域への国際的な注目度の高さを物語っています。
[掲載論文] Pharmaceutics 2024, 16(4), 446 Mesenchymal Stem Cell-Derived Exosomes…
有効な治療が確立されていない“低酸素脳症”に対し、間葉系幹細胞の培養上清から抽出したエクソソームの経鼻投与が神経機能障害を軽減させることが示唆された という研究内容です。
このように、条件を厳密に調整した環境下であれば、エクソソーム自体は決して怪しいものではなく、未来の医療の希望です。それは間違いありません。
2. 現在行われているエクソソーム治療の問題点
しかし、だからこそ私は、現在ちまたのクリニックで高額で売られている「エクソソーム点滴」に対して、強い違和感を抱いています。
研究室レベルでは当たり前に求められる「検証プロセス」が欠如したまま、不確かなものが『医療』として提供されているように見えるからです。 私が研究室で苦労して管理していた「以下の5つの前提」が、現在の商業ベースの治療では驚くほど共有されていません。
- ソース(Source): 誰の、どこの組織(脂肪?歯髄?臍帯?)由来なのか?
- 内容物(Content): その小胞の中に「何(miRNAなど)」が入っているのか?
- 抽出方法(Extraction): 不純物をどうやって除いたのか?
- 作用機序(MOA): その成分の「何」が、体の「何」に効いているのか?
- 用量設定(Dosage): その投与量は、科学的に妥当なのか?
現在市場に出回っているエクソソーム製品大部分は、これらがブラックボックスのまま「なんとなく若返る、元気になる」というイメージだけで患者さんたちの体に投与されている、という印象が拭えません。これでは、「有効性の検証」以前の状態と言わざるを得ません。
3. 「培養上清液」はエクソソームなのか?
特に問題なのは、「培養上清液(ばいようじょうせいえき)」をそのままエクソソーム治療として提供しているケースです。
確かにその液体の中にエクソソームは含まれているでしょう。しかし、精製が甘ければ、そこには大量の「不純物」も含まれます。 細胞が死んだ破片、培地に含まれるアンモニアや添加剤……。
これら雑多な成分が混入している状態では、「本当にエクソソームが効いているのか、それとも別の不純物が炎症反応を起こしているのか」すら分かりません。 研究レベルで純度を高めることの難しさを知っているからこそ、この検証不十分な「不純物の多いスープ」を血管に入れるリスクを無視することはできません。
再生医療認定医として考える、エクソソーム治療の現時点での結論
私は、再生医療やエクソソームの可能性を誰よりも信じています。 だからこそ、今の「なんでもあり」のブームが去り、製造・品質管理がある程度管理・標準化され、「ソース・中身・純度」が保証された製剤が確立されるのを期待しています。
「やらない」という判断は、遅れているからではありません。
研究の現場でエクソソームの可能性と限界の両方を見てきたからこそ、現時点で標準化されていない/検証が十分でない製剤を安易に体内へ投与することには慎重であるべきだと考えています。
それが、再生医療を扱う医師として、患者さんに対して負うべき最も基本的な姿勢だと考えています。
当院では、不確かな点滴ではなく、現時点で医学的に確立された「ホルモン解析」や「DNA・血管老化度測定」を用いて、確実に結果の出るパフォーマンス管理を提供します。

あたまと体のヘルスケアクリニック神田 | 東京 千代田区
院長・医学博士 池田 拓磨(脳神経外科専門医 / 再生医療認定医 / 抗加齢医学専門医)





